導入
「被害を受ける」と「損害を受ける」は、どちらも何か悪いことによってマイナスの影響を受けたときに使う表現です。
そのため、日本語学習者にとってはかなり区別しにくい言葉です。
例えば、台風で家が壊れた場合には、
「台風で被害を受けた」
とも言えますし、
「台風で損害を受けた」
とも言える場合があります。
では、同じ意味なのでしょうか。
実は、この2つは注目しているポイントが少し違います。
「被害を受ける」は、事故、災害、犯罪などによって悪い影響を受けることを広く表します。
一方、「損害を受ける」は、物やお金、財産、事業などに具体的な損失が発生することに重点があります。
意味が近いからこそ、何となく選んでしまうと、日本語として少し不自然になることがあります。
今回は、学習者がよくしそうな間違いから、「被害を受ける」と「損害を受ける」の違いを整理していきましょう。
よくある間違い
まず、次の文を見てください。
私はインターネットで詐欺に遭い、大きな損害を受けました。
この文は文法的に間違っているわけではありません。
実際にお金を失ったことを強調したい場合には、「損害を受けた」でも自然です。
しかし、単に「詐欺の被害者になった」という意味なら、
私はインターネット詐欺の被害を受けました。
のほうが自然です。
もう一つ見てみましょう。
台風によって、多くの住民が損害を受けました。
意味は伝わりますが、人そのものについて広く悪影響を受けたことを言う場合は、
台風によって、多くの住民が被害を受けました。
のほうが自然です。
「損害」は、特に家、車、商品、財産、会社の売上など、具体的に失われたものに注目するときによく使われます。
なぜ不自然に聞こえるのか
間違いが起きやすい理由は、「被害」と「損害」のどちらにも「悪い影響を受ける」という共通点があるからです。
しかし、日本語では注目しているポイントが違います。
「被害」は、
- 人がけがをする
- 犯罪に巻き込まれる
- 災害で生活に影響が出る
- 建物や地域が壊れる
- 動物や農作物などに悪い影響が出る
といった幅広い場面で使えます。
つまり、「何か悪いことが起こり、その影響を受けた」という全体的な状況を表しやすい言葉です。
一方、「損害」は、
- 家や車が壊れる
- 商品が使えなくなる
- お金を失う
- 会社の売上が減る
- 財産や設備に損失が出る
といった、具体的にどれくらい失ったのかを意識する場面で使われやすい言葉です。
そのため、「損害額」「損害賠償」「経済的損害」のような表現もよく使われます。
簡単に言えば、
「被害」は悪い出来事の影響全体、
「損害」はその結果として発生した具体的な損失、
という違いがあります。
自然な言い方
先ほどの例を直してみましょう。
犯罪について話す場合
少し不自然になりやすい言い方:
私はインターネット詐欺で損害を受けました。
もちろん、お金を失ったことを強調するなら使えます。
しかし、「詐欺に遭った」という事実を言いたいなら、
私はインターネット詐欺の被害を受けました。
のほうが自然です。
犯罪については、「詐欺の被害」「盗難の被害」「犯罪の被害」のように「被害」を使うことが非常に多いからです。
災害で人について話す場合
少し不自然になりやすい言い方:
地震で多くの住民が損害を受けました。
より自然な言い方:
地震で多くの住民が被害を受けました。
ここでは、人々が地震によって悪い影響を受けたという全体的な状況を表しているため、「被害」が合います。
一方、建物について具体的な損失を言うなら、
地震によって建物に大きな損害が出ました。
のように「損害」が自然です。
2つの語の基本的な違い
ここで整理しておきましょう。
被害を受ける
「被害を受ける」は、事故、犯罪、災害などによって悪い影響を受けることを広く表します。
人にも物にも地域にも使えます。
例えば、
- 台風の被害を受ける
- 地震の被害を受ける
- 詐欺の被害を受ける
- 盗難の被害を受ける
- 洪水の被害を受ける
などです。
重要なのは、「何か悪い出来事の影響を受けた」という点です。
必ずしも金額で表せる必要はありません。
けがをしたり、生活に困ったり、精神的な影響を受けたりした場合にも「被害」が使われます。
損害を受ける
「損害を受ける」は、何かが壊れたり、お金や財産を失ったりして、具体的な損失が発生することを表します。
特に、
- 会社
- 財産
- 建物
- 商品
- 設備
- 事業
などと一緒に使われることが多い言葉です。
また、「損害」は少し硬い言葉なので、ニュース、ビジネス、法律関係の文章でもよく使われます。
「いくら失ったのか」「どの程度の損失があったのか」という考え方と結びつきやすいのが特徴です。
例文で感覚をつかむ
例文1
この地域は去年の台風で大きな被害を受けた。
この場合は、台風によって地域全体が悪い影響を受けたことを表しています。
家が壊れた、道路が使えなくなった、停電したなど、さまざまな影響をまとめて「被害」と表すことができます。
例文2
大雨によって多くの農家が被害を受けた。
ここでは、農家が大雨の悪い影響を受けたことを広く表しています。
農作物だけでなく、農地や設備などにも影響が出ている可能性があります。
例文3
その会社はサイバー攻撃によって大きな損害を受けた。
会社のシステムが止まったり、売上が減ったり、復旧費用が必要になったりした場合です。
経済的な損失に注目しているため、「損害」が自然です。
例文4
火事によって建物は大きな損害を受けた。
建物が焼けたり、設備が壊れたりしたことを表しています。
建物という財産に具体的な損失が発生しているため、「損害」がよく合います。
例文5
彼女は悪質な詐欺の被害を受けた。
犯罪によって悪い影響を受けた人について話しているので、「被害」が自然です。
日本語では「詐欺被害」「犯罪被害」「盗難被害」などの組み合わせが非常によく使われます。
例文6
詐欺による金銭的な損害は100万円を超えた。
ここでは「詐欺に遭ったこと」そのものではなく、具体的に失ったお金について話しています。
そのため、「被害」より「損害」が適しています。
同じ詐欺でも、
詐欺の被害を受けた。
と言えば「詐欺に遭ったこと」に注目し、
詐欺によって100万円の損害を受けた。
と言えば「失ったお金」に注目します。
この違いが分かると、2つの言葉をかなり使い分けやすくなります。
例文7
地震で多くの人が被害を受けた。
人々がけがをしたり、家を失ったり、避難生活を送ったりした可能性があります。
具体的な金額ではなく、人々への影響全体を表しているので「被害」が自然です。
例文8
地震による経済的な損害は数千億円に達した。
ここでは金額として計算できる経済的な損失を表しています。
そのため、「損害」が自然です。
「被害を受ける」と「損害を受ける」を区別するときは、
「何が起きたか」を見ているのか、
それとも
「何をどれくらい失ったか」を見ているのか、
を考えてみると分かりやすくなります。
JLPTで間違えやすい選択肢
「被害」と「損害」は、JLPTの語彙問題や読解問題でも注意したい言葉です。
意味が非常に近いため、選択肢に両方があると迷いやすくなります。
例えば、次のような文を考えてみましょう。
大雨のため、多くの住民が___を受けた。
ここでは「住民」が大雨による悪い影響を受けたことを表しているため、
「被害」
が自然です。
一方、
工場の停止による会社の___は数億円に達した。
という文なら、
「損害」
が自然です。
「数億円に達した」という部分から、金額で表せる具体的な損失について話していることが分かります。
JLPTでは、単語だけを見て判断するのではなく、周囲の言葉を見ることが重要です。
特に、
- 人や地域への悪影響
- 災害や犯罪の影響
が中心なら「被害」を考えます。
一方、
- 金額
- 財産
- 会社
- 経済
- 修理費
- 売上
などが中心なら「損害」が使われる可能性が高くなります。
もちろん、実際の日本語では両方使える場面もあります。
だからこそ、「どちらも意味が近い」で終わらせず、その文章が何に注目しているのかを見ることが大切です。
まとめ
「被害を受ける」と「損害を受ける」は、どちらも悪い出来事によってマイナスの影響を受けるときに使います。
ただし、注目しているポイントが違います。
- 「被害を受ける」は、災害、事故、犯罪などによる悪い影響を広く表す
- 「損害を受ける」は、物、お金、財産、事業などに発生した具体的な損失を表しやすい
- 人が災害や犯罪の影響を受けた場合は「被害」が自然なことが多い
- 金額や経済的な損失を強調する場合は「損害」が自然なことが多い
- 同じ出来事でも、何に注目するかによって両方使える場合がある
似ている言葉を正しく使い分けるためには、単語の日本語訳を覚えるだけでは十分ではありません。
「どんな場面で使うのか」「何に注目している言葉なのか」まで理解すると、語彙問題だけでなく、読解や作文でも自然な日本語を選びやすくなります。
RJT(Rapid Japanese Training)では、JLPT対策に必要な語彙・文法・読解・聴解を、実際の問題を解きながらトレーニングできます。
「意味は分かるのに、似た選択肢でいつも迷ってしまう」という人は、問題を繰り返し解きながら、日本語の細かな使い分けを身につけていきましょう。