導入
日本語を勉強していると、こんな文を作ってしまうことがあります。
「日本に来たとき、田中先生をお世話になりました。」
言いたいことは、なんとなく分かります。
おそらく、
「日本に来たとき、田中先生がいろいろ助けてくれた」
という意味でしょう。
しかし、自然な日本語では、
「日本に来たとき、田中先生にお世話になりました。」
と言います。
「世話をする」と「世話になる」は、どちらも「人を助けること」に関係しているので、学習者にとって非常に混同しやすい表現です。
大切なのは、「誰が助けるのか」だけではありません。
「助ける側から見ているのか」「助けてもらう側から見ているのか」という視点の違いです。
この違いが分かると、「世話をする」と「世話になる」をかなり正確に使い分けられるようになります。
よくある間違い
まず、学習者が作りやすい文を見てみましょう。
日本に来たとき、田中先生をお世話になりました。
この文では「田中先生を」が不自然です。
自分が田中先生から助けてもらったのであれば、
日本に来たとき、田中先生にお世話になりました。
となります。
もう一つ見てみましょう。
私は毎日、子どもに世話になっています。
もし言いたいことが「私は毎日、子どもの食事を作ったり、生活の面倒を見たりしています」であれば、この文も意味が逆になっています。
自然なのは、
私は毎日、子どもの世話をしています。
です。
「世話になる」を使うと、「私が子どもから助けてもらっている」という意味になってしまいます。
なぜ不自然に聞こえるのか
間違いが起きる一番大きな原因は、「世話」という同じ言葉が入っていることです。
しかし、
「世話をする」
「世話になる」
では、話している人の立場が反対になります。
「世話をする」は、助ける側です。
たとえば、
母が祖父の世話をしています。
この場合、母が祖父を助けています。
一方、
私は日本に来たばかりのころ、先生にお世話になりました。
では、先生が私を助けてくれました。
つまり、自分は助けてもらった側です。
簡単に考えるなら、
- 世話をする → 助ける側
- 世話になる → 助けてもらう側
と覚えると分かりやすいでしょう。
さらに、助詞にも注意が必要です。
「世話をする」の相手は、一般に「~の世話をする」と表します。
子どもの世話をする。
犬の世話をする。
病気の父の世話をする。
一方、「世話になる」では、助けてくれる人を「~に」で表します。
先生にお世話になる。
友人に世話になる。
親戚にお世話になる。
ここを一緒に覚えておくと、間違いがかなり減ります。
自然な言い方
先ほどの誤用を直してみましょう。
不自然:
日本に来たとき、田中先生をお世話になりました。
自然:
日本に来たとき、田中先生にお世話になりました。
田中先生から助けてもらったので、「世話になる」を使います。
そして、助けてくれた相手には「に」を使います。
次の文も確認してみましょう。
不自然:
私は毎日、子どもに世話になっています。
自然:
私は毎日、子どもの世話をしています。
この場合は、自分が子どもの面倒を見ています。
つまり、自分が助ける側なので「世話をする」が自然です。
「誰が助けているのか」を考えるだけで、多くの間違いを防ぐことができます。
2つの語の基本的な違い
「世話をする」は、人や動物などのために何かをしてあげることです。
食事を用意する、生活を手伝う、必要なことをしてあげる、といった具体的な行動によく使います。
子どもの世話をする。
犬の世話をする。
病気の母の世話をする。
一方、「世話になる」は、誰かから助けてもらったり、面倒を見てもらったりすることです。
特に「お世話になる」という丁寧な形は、日常生活でも仕事でも非常によく使われます。
先生にお世話になりました。
留学中、ホストファミリーにお世話になりました。
仕事では多くの方にお世話になっています。
「お世話になりました」には、単に「助けてもらいました」という事実だけでなく、相手への感謝の気持ちが含まれることも多くあります。
そのため、日本ではあいさつやお礼の表現としても非常によく使われます。
例文で感覚をつかむ
姉が祖母の世話をしています。
姉が祖母の生活を助けています。
姉は「助ける側」なので、「世話をする」を使います。
毎朝、犬の世話をしてから学校へ行きます。
犬に食事を与えたり、散歩をしたりするという意味です。
自分が犬のために行動しているので、「世話をする」が自然です。
日本へ留学したとき、山田先生にお世話になりました。
山田先生が自分を助けてくれました。
自分は「助けてもらう側」なので、「お世話になる」を使います。
大学時代は、叔父の家に住んで叔父夫婦に世話になりました。
叔父夫婦から生活面で助けてもらった、という意味です。
この場合も「世話になる」が自然です。
入社したばかりのころ、先輩には本当にお世話になりました。
仕事のやり方を教えてもらったり、困ったときに助けてもらったりしたことを表しています。
日本語では非常によく使われる自然な表現です。
父が入院しているので、母が父の世話をしています。
母が父を助けているので、「世話をする」です。
同じ「世話」でも、誰の視点で話しているかによって表現が変わります。
JLPTで間違えやすい選択肢
JLPTの語彙問題や読解問題では、「世話をする」と「世話になる」の意味を知っているだけでは足りないことがあります。
特に注意したいのは、文の中の「助ける側」と「助けてもらう側」です。
たとえば、次のような問題を考えてみましょう。
留学中は、大学の先生や友人にずいぶん( )。
選択肢に、
- 世話をしました
- お世話になりました
があった場合、意味だけをぼんやり見ていると迷うかもしれません。
しかし、「先生や友人に」と書いてあります。
先生や友人から助けてもらったと考えれば、
留学中は、大学の先生や友人にずいぶんお世話になりました。
が自然です。
反対に、
母は仕事をしながら祖母の( )。
という文なら、
母は仕事をしながら祖母の世話をしています。
のように「世話をする」が合います。
JLPTでは、似た意味を持つ言葉を並べて、「なんとなく意味が近いもの」を選ばせる問題があります。
そんなときは、単語だけを見るのではなく、
「誰が誰を助けているのか」
「この人は助ける側か、助けてもらう側か」
まで確認することが重要です。
まとめ
「世話をする」と「世話になる」は、同じ「世話」という言葉を使いますが、視点は反対です。
- 世話をする → 自分や主語が相手を助ける
- 世話になる → 自分や主語が相手から助けてもらう
- 子どもの世話をする → 「~の」がよく使われる
- 先生にお世話になる → 「~に」がよく使われる
特に「お世話になりました」は、助けてもらった相手への感謝を表す、日本語らしい重要な表現です。
似ている言葉を正しく使い分けるには、意味を一つずつ暗記するだけでなく、「その場面では誰が何をしているのか」を考えることが大切です。
RJT(Rapid Japanese Training)では、JLPT N3〜N2で迷いやすい語彙や文法を、実際の問題を解きながら繰り返し練習できます。
「意味は分かるのに、選択肢になると迷ってしまう」という人は、実戦形式で日本語の感覚を身につけてみてください。