導入
「増やす」と「増える」は、どちらも「数や量が多くなる」ときに使う言葉です。
たとえば、
「勉強時間を増やす」
「勉強時間が増える」
は、どちらも正しい日本語です。
しかし、意味は同じではありません。
「増やす」は、誰かが意識して数や量を多くするときに使います。
一方、「増える」は、数や量が多くなるという変化そのものを表します。
この違いは、単語の意味だけを覚えていても、実際の会話では迷いやすいポイントです。
大切なのは、
「誰かが多くするのか」
「自然に多くなるのか」
という場面をイメージすることです。
今回は、日常会話、仕事、ニュース、JLPT読解などの場面から、「増やす」と「増える」の自然な使い分けを見ていきましょう。
まず場面で考えてみよう
あなたは最近、運動不足だと感じています。
そこで、こんなことを考えました。
「これから毎日、歩く時間を30分から1時間にしたい。」
この場合は、
「歩く時間を増やしたい。」
と言うのが自然です。
自分の意志で、歩く時間を長くしようとしているからです。
では、仕事が忙しくなって、いつの間にか残業する時間が長くなった場合はどうでしょうか。
この場合は、
「最近、残業時間が増えた。」
と言います。
自分が「残業時間を多くしよう」と決めたのではなく、仕事の状況によって残業時間が多くなったからです。
つまり、
「自分や誰かが多くする」なら「増やす」
「数や量が多くなる」なら「増える」
と考えると分かりやすくなります。
場面1:日常会話で使うなら
「増やす」と「増える」は、どちらも日常会話で非常によく使います。
どちらか一方が特に会話的というより、「誰が変化を起こしているか」で選ぶことが大切です。
たとえば、友達とこんな会話をすることがあります。
A:「最近、運動してる?」
B:「あまりしてないから、来月から運動する時間を増やそうと思ってる。」
ここでは、Bさん自身が意識して運動時間を多くしようとしているので、「増やす」を使います。
一方、こんな会話ならどうでしょうか。
A:「最近、忙しそうだね。」
B:「うん。仕事が増えて、帰るのが遅くなった。」
ここでは、「仕事」という量が多くなっています。
そのため、「仕事が増える」が自然です。
日常会話では、次の形を意識すると分かりやすいでしょう。
- ○○を増やす
- ○○が増える
助詞の違いにも注目してください。
「増やす」は「を」と一緒に使うことが多く、「増える」は「が」と一緒に使うことが多い言葉です。
場面2:文章やニュースで使うなら
ニュースや説明文、JLPTの読解問題でも、「増やす」と「増える」はよく使われます。
たとえば、
「政府は外国人観光客を増やすため、新しい政策を発表した。」
という文章があったとします。
ここでは、政府が政策によって観光客の数を多くしようとしています。
つまり、意図的な働きかけがあるので「増やす」です。
一方、
「この地域では外国人観光客が年々増えている。」
という文章では、外国人観光客の数が多くなっているという変化を説明しています。
ここでは「増える」を使います。
ニュースや説明文では、この2つが続けて出てくることもあります。
「観光客を増やすための政策によって、実際に観光客が増えた。」
最初の「増やす」は目的や行動を表しています。
後ろの「増えた」は、その結果として起きた変化を表しています。
JLPTの読解では、この関係を理解できると、文章の「原因」と「結果」を読み取りやすくなります。
場面3:感情や評価が入るなら
「増やす」と「増える」は、それ自体が強い感情を表す言葉ではありません。
しかし、話し手の意志や評価と一緒に使われると、ニュアンスの違いがはっきりします。
たとえば、
「もっと貯金を増やしたい。」
という文には、「自分で貯金額を多くしたい」という意志があります。
「増やしたい」と言うことで、話し手が変化を起こそうとしていることが分かります。
一方、
「最近、出費が増えて困っている。」
では、「出費が多くなった」という状況に対して、「困っている」という感情が加わっています。
出費を自分から多くしようとしたわけではありません。
このように、
「増やす」は、計画、努力、意志、対策などと一緒に使われやすく、
「増える」は、状況の変化、結果、傾向などを客観的に説明するときにもよく使われます。
ただし、「増える」が必ず客観的で、「増やす」が必ず主観的という意味ではありません。
重要なのは、感情の有無ではなく、「誰かが意図的に多くするのか」「数や量そのものが多くなるのか」という違いです。
2つの語の違いを整理
ここまでの場面から、「増やす」と「増える」の違いを整理してみましょう。
「増やす」
- 誰かが数や量を多くする
- 「○○を増やす」の形になりやすい
- 意志、計画、努力、対策などと一緒に使いやすい
- 「もっと多くしよう」という働きかけがある
「増える」
- 数や量が多くなる
- 「○○が増える」の形になりやすい
- 状況の変化や結果を説明するときによく使う
- 誰が変化を起こしたかを言わない場合にも使いやすい
覚えるときは、
「人が増やす。数が増える。」
というイメージを持つと分かりやすいでしょう。
例文で確認
1. 毎日、日本語を勉強する時間を増やしました。
自分で勉強時間を長くした場面です。
「もっと勉強しよう」と考えて行動しているので、「増やす」が自然です。
2. 最近、日本語を勉強する時間が増えました。
以前より勉強時間が長くなったという変化を説明しています。
どのような理由で増えたかは、この文だけでは分かりません。
変化そのものを表しているので「増える」を使います。
3. 会社は海外で働く社員を増やす予定です。
会社が意図的に社員の人数を多くしようとしています。
仕事やニュースでもよく使われる「増やす」の例です。
4. この町では外国人住民が増えています。
外国人住民の人数が多くなっているという傾向を説明しています。
ニュース、統計、説明文などでもよく使われる表現です。
5. 健康のために、野菜を食べる回数を増やしたほうがいいですよ。
相手に対して、「今より多くしたほうがいい」とアドバイスしています。
意識的に回数を多くするので「増やす」を使います。
6. 年齢とともに、健康について考える機会が増えました。
「考える機会」が以前より多くなったという変化です。
自然な変化や経験について話すときに使いやすい「増える」の例です。
7. 売り上げを増やすために、新しい商品を開発しました。
会社が意図的に売り上げを多くしようとしています。
「○○を増やすために」という形は、仕事やJLPTの文章でもよく見かけます。
8. 新しい商品が人気になり、会社の売り上げが増えました。
新商品の人気によって、売り上げという数字が大きくなりました。
結果を説明しているので「増える」が自然です。
JLPT読解での見方
JLPTの読解で「増やす」と「増える」が出てきたら、単純に「多くなる」と訳して終わらせないことが大切です。
まず、助詞を確認してみましょう。
「利用者を増やす」
なら、誰かが利用者の数を多くしようとしています。
「利用者が増える」
なら、利用者の数そのものが多くなっています。
さらに、前後の文脈にも注目してください。
たとえば、
「利用者を増やすために、料金を安くした。」
と書かれていれば、「利用者を増やす」は目的です。
その後に、
「その結果、若い利用者が増えた。」
とあれば、「利用者が増えた」は結果です。
この「目的として増やす → 結果として増える」という流れは、説明文やニュースなどで非常によく使われます。
読解問題では、一つの単語だけを見るのではなく、
「誰が何をしようとしているのか」
「何が変化したのか」
「これは原因なのか、結果なのか」
まで考えると、文章全体の流れが理解しやすくなります。
まとめ
「増やす」と「増える」は、どちらも数や量が多くなることに関係する言葉ですが、使う場面が違います。
「増やす」は、誰かが意図的に数や量を多くするときに使います。
「増える」は、数や量そのものが多くなる変化を表します。
迷ったときは、
- 自分や誰かが多くする → 増やす
- 数や量が多くなる → 増える
- ○○を増やす
- ○○が増える
という形を思い出してみてください。
JLPTでは、単語の意味を覚えるだけではなく、「その言葉が文章の中でどんな役割を持っているか」を考えることが重要です。
RJT(Rapid Japanese Training)では、JLPT対策の問題を通して、語彙や文法を実際の文脈の中で練習できます。
「意味は知っているのに、問題になると迷ってしまう」という人は、実際の問題を解きながら、日本語を場面で判断する力を身につけていきましょう。