導入
「始める」と「始まる」は、どちらも何かがスタートする場面で使う言葉です。
そのため、日本語を勉強していると、
授業を始まります。
会議が始めます。
のように、どちらを使えばいいのか迷うことがあります。
意味が近いため、文の内容自体はなんとなく伝わります。しかし、日本語では「誰かが何かをスタートさせる」のか、「何かがスタートする」のかによって、使う動詞が変わります。
この違いが分かると、「を」と「が」の使い方も自然に判断できるようになります。
今回は、学習者がよく作る間違いから、「始める」と「始まる」の違いを整理していきましょう。
よくある間違い
まず、次の文を見てください。
9時から授業を始まります。
言いたいことは十分に伝わります。
しかし、自然な日本語では少し違和感があります。
「授業を」と言っているため、この文では「誰かが授業をスタートさせる」という形になっています。その場合、「始まる」ではなく「始める」を使います。
もう一つ見てみましょう。
9時に授業が始めます。
こちらも意味は想像できますが、自然ではありません。
「授業が」と言う場合、授業そのものがスタートすることを表しているため、「始まる」が自然です。
なぜ不自然に聞こえるのか
「始める」と「始まる」の一番大きな違いは、
「誰かが始める」のか、
「何かが始まる」のか
という点です。
「始める」は、人などが何かをスタートさせるときに使います。
たとえば、
先生が授業を始める。
では、「先生」が行動する人です。
一方、
授業が始まる。
では、誰がスタートさせるかは重要ではありません。
注目しているのは「授業がスタートする」という出来事そのものです。
この違いを理解すると、助詞との組み合わせも分かりやすくなります。
- 何かを始める
- 何かが始まる
この形をセットで覚えておくと便利です。
自然な言い方
先ほどの誤用例を直してみましょう。
誤用:
9時から授業を始まります。
自然な言い方:
9時から授業を始めます。
この場合は、先生や学校などが「授業をスタートさせる」という意味なので、「始める」を使います。
一方、
誤用:
9時に授業が始めます。
自然な言い方:
9時に授業が始まります。
こちらは「授業そのものがスタートする」という意味なので、「始まる」を使います。
同じ出来事について話していても、どこに注目するかによって動詞が変わります。
先生が授業を始めました。
と
授業が始まりました。
は、同じ場面について言うことができます。
前者は「先生の行動」に注目し、後者は「授業という出来事」に注目しています。
2つの語の基本的な違い
「始める」は他動詞です。
人が何かをスタートさせるときに使います。
基本の形は、
人が+もの・ことを+始める
です。
たとえば、
私は日本語の勉強を始めました。
自分の意思で日本語の勉強をスタートした、という意味です。
一方、「始まる」は自動詞です。
何かがスタートする、という変化や出来事を表します。
基本の形は、
もの・ことが+始まる
です。
たとえば、
日本語の授業が始まりました。
授業という出来事がスタートしたことを表しています。
簡単に考えるなら、
- 誰かが何かをスタートさせる → 始める
- 何かがスタートする → 始まる
と覚えると分かりやすいでしょう。
例文で感覚をつかむ
例文1
来月から新しい仕事を始めます。
「仕事を」と言っているため、「始める」を使います。
話している人が、自分の意思で新しい仕事をスタートするという意味です。
例文2
新しいプロジェクトが来月から始まります。
ここでは「プロジェクトが」スタートします。
誰がプロジェクトを開始するかではなく、プロジェクトの開始そのものに注目しているため、「始まる」が自然です。
例文3
先生は10時に授業を始めました。
先生が授業をスタートさせています。
「先生が何をしたか」を説明しているので、「始める」を使います。
例文4
授業は10時に始まりました。
今度は「授業がスタートした」という出来事について説明しています。
誰が授業を開始したかは重要ではないため、「始まる」が自然です。
例文5
最近、毎朝ジョギングを始めました。
自分で新しい習慣をスタートしたので、「始める」を使います。
「ジョギングを始める」「勉強を始める」「仕事を始める」のように、自分の行動についてよく使われます。
例文6
雨が降り始めました。
ここでは「始める」が「降る」という動詞について、「その動作がスタートした」という意味を作っています。
「動詞のます形+始める」という形では、
- 食べ始める
- 話し始める
- 歩き始める
- 降り始める
のように、「その動作をし始める」という意味になります。
これは「仕事を始める」のような使い方とは形が少し違いますが、N3ではよく出てくる重要な用法です。
例文7
映画が始まったので、席に座りましょう。
映画そのものがスタートしたため、「始まる」を使います。
「映画を始める」と言うと、映画館のスタッフなどが映画の上映をスタートさせる、という意味になります。
例文8
店長が朝礼を始めると、みんな静かになりました。
「店長が朝礼をスタートさせる」という意味なので、「始める」です。
同じ場面を、
朝礼が始まると、みんな静かになりました。
と言うこともできます。
こちらは「朝礼がスタートした」という出来事に注目しています。
このように、「始める」と「始まる」は単純に意味だけを覚えるのではなく、「誰の行動を見ているのか」「出来事そのものを見ているのか」を考えることが大切です。
JLPTで間違えやすい選択肢
JLPTでは、「始める」と「始まる」のような自動詞・他動詞の組み合わせがよく問題になります。
たとえば、次のような問題です。
会議は午後2時から( )。
- 始めます
- 始まります
意味だけを見ると、どちらも「start」に関係しているので迷うかもしれません。
しかし、「会議は」が主題になっていて、「会議そのものがスタートする」という意味です。
そのため、
会議は午後2時から始まります。
が自然です。
一方、
部長は午後2時から会議を( )。
なら、
部長は午後2時から会議を始めます。
となります。
JLPTでこのタイプの問題が出たら、単語の意味だけを見るのではなく、特に次の部分を確認してください。
- 「を」があるか
- 「が」があるか
- 誰かが行動しているか
- 出来事そのものが始まるのか
「始める」も「始まる」も意味が近いため、意味だけで選ぶと間違いやすい語です。
文全体を見て、「誰かが何かを始める」のか、「何かが始まる」のかを確認することが正解への近道です。
まとめ
「始める」と「始まる」は、どちらも「スタート」に関係する言葉ですが、文の作り方が違います。
- 何かをスタートさせる → 始める
- 何かがスタートする → 始まる
- 「何かを始める」の形をよく使う
- 「何かが始まる」の形をよく使う
- JLPTでは意味だけでなく、「を」「が」と文全体を見る
たとえば、
先生が授業を始める。
と
授業が始まる。
の違いを理解できれば、基本的な使い分けはできています。
似ている言葉は、辞書の意味を覚えるだけではなかなか使い分けられるようになりません。
実際の問題の中で、「なぜこちらが正解なのか」「なぜもう一方では不自然なのか」を考えることで、少しずつ自然な日本語の感覚が身についていきます。
RJT(Rapid Japanese Training)では、JLPT対策の問題を解きながら、こうした似た表現の違いや、正解に近い誤答を見分ける練習ができます。
N3・N2の語彙や文法を実際の問題形式で練習したい方は、RJTで学習を始めてみてください。