日本語の文章を読んでいると、「にあたって」や「際して」という表現に出会うことがあります。
どちらも少しかたい言い方で、案内文・説明文・ビジネス文書などによく使われます。
たとえば、次のような文です。
「新しい制度を始めるにあたって、説明会を開きます。」
「サービスのご利用に際して、以下の注意事項をご確認ください。」
どちらも「何かをするとき」に関係しているように見えます。
しかし、実は見ているポイントが少し違います。
「にあたって」は、何かを始める前の準備・心構え・方針に目が向きやすい表現です。
一方、「際して」は、ある行為や場面に伴う注意・条件・手続きに目が向きやすい表現です。
そのため、日本語学習者にとっては、
「にあたって」と「際して」は同じ意味ですか?
どちらを使ってもいいですか?
読解ではどう見分ければいいですか?
という疑問が出やすいところです。
この記事では、「にあたって」と「際して」の違いを、改まった文の出だしとしてどう読めばよいかに注目して整理します。
まず大きな違いをつかむ
「にあたって」は、「これから大事なことを始める。その前に」という感覚を持つ表現です。
たとえば、
「留学するにあたって、日本語の基礎を復習した。」
この文では、「留学」という大きな行動を始める前に、必要な準備をしたという意味になります。
つまり、「にあたって」は、ある出来事や行動を一つの区切りとして見て、その前段階にある準備や気持ちを述べるときによく使われます。
一方、「際して」は、「その場面で」「その行為をするときに」という感覚が強い表現です。
たとえば、
「入館に際して、身分証明書の提示が必要です。」
この文では、「入館する場面で、身分証明書を見せる必要がある」という意味です。
ここでは、準備や心構えというより、入館という行為に伴う条件・手続き・注意事項を述べています。
つまり、
「にあたって」は、始める前の準備や姿勢に注目する。
「際して」は、その場面で必要になる注意や条件に注目する。
このように考えると、かなり整理しやすくなります。
「にあたって」は大きな節目の前に使いやすい
「にあたって」は、人生の出来事、仕事上の計画、制度の開始、試験、留学、就職、開業など、少し大きな出来事と相性がよい表現です。
例を見てみましょう。
「新しい事業を始めるにあたって、市場調査を行った。」
この文では、「新しい事業を始める」という大きな行動の前に、市場調査をしたという意味です。
「卒業論文を書くにあたって、先行研究を調べた。」
この場合も、卒業論文を書く前に、必要な準備をしたという流れです。
「海外で生活するにあたって、その国の文化を学んでおきたい。」
ここでは、海外生活を始める前に、文化を学ぶ必要があるという気持ちが表れています。
このように、「にあたって」は、ただ「そのとき」というより、「これから何かを始めるので、その前に」という雰囲気を持ちます。
そのため、後ろには次のような内容がよく続きます。
準備をする。
確認する。
計画を立てる。
注意点を整理する。
心構えを述べる。
協力をお願いする。
方針を説明する。
たとえば、あいさつ文でもよく使われます。
「新年度を迎えるにあたって、一言ごあいさつ申し上げます。」
これは、「新年度という節目を迎えるので、そのタイミングで」という意味です。
少し改まった、式辞やお知らせに近い文の出だしです。
「際して」は行為に伴う注意・条件を述べやすい
「際して」は、「その行為をするときに」「その場面において」という意味で使われます。
特に、注意事項、手続き、条件、必要書類、ルールなどを説明するときによく出てきます。
例を見てみましょう。
「お申し込みに際して、本人確認書類が必要です。」
これは、「申し込むときに、本人確認書類が必要です」という意味です。
「サービスのご利用に際して、以下の規約をお読みください。」
これは、サービスを利用するときの注意事項を説明する文です。
「契約に際して、不明な点があれば担当者に確認してください。」
これは、契約の場面で注意すべきことを述べています。
このように、「際して」は、具体的な手続きや場面と結びつきやすい表現です。
「にあたって」にも注意事項が続くことはあります。
しかし、「際して」はより事務的で、案内文・規約・説明書・公的文書などに出やすい感じがあります。
つまり、「際して」が出てきたら、
何かをするときの注意なのだな。
その場面で必要な条件なのだな。
手続きやルールの説明なのだな。
と読むと、文の流れをつかみやすくなります。
似ている例で比べてみる
次の二つを比べてみましょう。
「新しいシステムを導入するにあたって、社員向けの研修を行います。」
「新しいシステムの利用に際して、パスワードの管理に注意してください。」
一つ目の「にあたって」は、新しいシステムを導入する前の準備として、研修を行うという意味です。
二つ目の「際して」は、新しいシステムを使う場面で、パスワード管理に注意するという意味です。
どちらも「新しいシステム」に関係していますが、視点が違います。
「にあたって」は、導入という大きな節目の前に何をするか。
「際して」は、利用という具体的な場面で何に注意するか。
この違いが読めると、文章全体の方向が見えやすくなります。
もう一つ見てみましょう。
「留学するにあたって、日本語だけでなく生活習慣も学んだ。」
「入国に際して、必要な書類を提出しなければならない。」
一つ目は、留学前の準備です。
二つ目は、入国時の手続きです。
このように、「にあたって」は準備や心構え、「際して」は場面上の条件や手続き、と考えると自然です。
「に際して」という形もよく使われる
実際の文章では、「際して」は「に際して」という形でよく出てきます。
「ご利用に際して」
「お申し込みに際して」
「契約に際して」
「登録に際して」
「入会に際して」
「受験に際して」
これらは、どれもかなり改まった言い方です。
日常会話では、
「使うとき」
「申し込むとき」
「契約するとき」
と言うことが多いです。
しかし、案内文やビジネス文書では、
「ご利用に際して」
「お申し込みに際して」
のように言うことで、文全体が丁寧で正式な印象になります。
ただし、少しかたい表現なので、ふだんの会話で無理に使うと不自然になることがあります。
たとえば、友達に向かって、
「ゲームをするに際して、飲み物を準備しました。」
と言うと、かなり大げさに聞こえます。
普通は、
「ゲームをする前に、飲み物を準備した。」
「ゲームをするとき、飲み物を用意した。」
で十分です。
読解では後ろの内容に注目する
読解問題で「にあたって」や「際して」が出たときは、表現だけを見て悩むより、後ろに何が続くかを見るのが大切です。
後ろに「準備」「計画」「心構え」「方針」「事前確認」のような内容が続くなら、「にあたって」の感覚が強いです。
たとえば、
「新制度を実施するにあたって、関係者の意見を聞いた。」
これは、実施前の準備です。
一方、後ろに「必要です」「注意してください」「提出してください」「確認してください」「規約を読んでください」のような内容が続くなら、「際して」の感覚が強くなります。
たとえば、
「申請に際して、必要書類を提出してください。」
これは、申請時の手続きです。
もちろん、実際には両方が近い意味で使われることもあります。
しかし、読解では細かい言い換えよりも、
何かを始める前の準備なのか。
その場面での注意・条件なのか。
を見分けることが重要です。
作文で使うときの注意
作文で使う場合は、まず「にあたって」を覚えると使いやすいです。
特に、少し大きな出来事を書くときに便利です。
「日本で働くにあたって、敬語を正しく使えるようになりたい。」
「大学に入学するにあたって、将来の目標を考え直した。」
「新しいプロジェクトを始めるにあたって、メンバー全員で目的を確認した。」
どれも自然です。
一方、「際して」は、案内文や説明文に向いています。
「受験に際して、学生証を忘れないでください。」
「登録に際して、メールアドレスの入力が必要です。」
「資料の提出に際して、名前を必ず記入してください。」
このように、名詞と結びつけて「提出に際して」「登録に際して」「利用に際して」と言うと、自然な文章になりやすいです。
ただし、「際して」はやや硬いので、簡単に言いたいときは「際に」や「ときに」を使うとよいでしょう。
「際に」との違いも少しだけ確認する
「際して」と似た表現に「際に」があります。
「際に」は、「ときに」に近く、比較的使いやすい表現です。
「お帰りの際に、受付へお立ち寄りください。」
「お申し込みの際に、必要事項を入力してください。」
これらは自然です。
一方、「際して」は、より改まった感じがあり、文章語的です。
「お申し込みに際して、必要事項をご確認ください。」
このように言うと、案内文や規約に近い硬さが出ます。
学習者にとっては、まず次のように整理するとよいでしょう。
「ときに」は普通。
「際に」は丁寧で少しかたい。
「際して」はさらに改まった文章語寄り。
この段階で理解しておけば、読解でも作文でも迷いにくくなります。
まとめ
「にあたって」と「際して」は、どちらも改まった文でよく使われる表現です。
どちらも「何かをするとき」という意味に近いですが、完全に同じではありません。
「にあたって」は、何かを始める前の準備・心構え・方針に注目する表現です。
「際して」は、ある行為や場面に伴う注意・条件・手続きに注目する表現です。
読解では、後ろに何が続くかを見ると理解しやすくなります。
準備や計画なら「にあたって」。
注意事項や必要書類なら「際して」。
このように整理しておくと、改まった文の出だしがぐっと読みやすくなります。
JLPT N2前後の読解では、文型そのものの意味だけでなく、その文型が文章全体の中でどんな役割を持っているかを読む力が大切です。
RJTでは、このような似ている日本語表現を、例文・解説・問題演習を通して整理しながら学べます。
文法をただ暗記するのではなく、「どんな場面で、どんな気持ちで使うのか」まで理解したい方は、ぜひRJTで学習を続けてみてください。