日本語の文章を読んでいると、次のような表現に出会うことがあります。
彼の話し方には、人を安心させるものがある。
この映画には、何度も見たくなるものがある。
その決断には、少し危ういものがある。
ここで使われている「ものがある」は、ただ「物が存在する」という意味ではありません。
「はっきり言い切るのは難しいけれど、そう感じさせる力や特徴がある」
「説明しにくいが、たしかにそのような印象を受ける」
という意味を表すN2レベルの文型です。
この記事では、「ものがある」の意味、使い方、よく出る文脈、そしてN2読解での見分け方を、RJTの学習者向けにわかりやすく整理します。
「ものがある」は、内側に感じられる性質を表す
「ものがある」は、ある人・物・出来事などについて、話し手が感じた印象や評価を表すときに使います。
たとえば、
この小説には、人の心を動かすものがある。
という文は、
この小説には、人の心を動かす力がある。
この小説を読むと、心を動かされるような印象を受ける。
という意味です。
ただし、「力がある」とはっきり断定するよりも、「ものがある」と言うことで、少しやわらかく、感覚的な言い方になります。
つまり、「ものがある」は、数字や事実で説明するというより、話し手が受け取った印象を述べる表現です。
基本の形
「ものがある」は、主に次のような形で使われます。
動詞の辞書形 + ものがある
い形容詞 + ものがある
な形容詞な + ものがある
名詞の + ものがある
例文で見てみましょう。
彼の演奏には、人を引きつけるものがある。
この発想には、新しいものがある。
その説明には、少し不自然なものがある。
彼女の言葉には、説得力のようなものがある。
多くの場合、「〜には、〜ものがある」という形で使われます。
「AにはBものがある」という形にすると、「Aの中にBのような性質・印象・力が感じられる」という意味になります。
「ものがある」は評価をやわらかく強める
「ものがある」は、ただ印象を述べるだけではありません。
実は、評価をやわらかく強める働きがあります。
たとえば、
この作品は魅力的だ。
と言うと、直接的な評価です。
一方で、
この作品には、人を引きつけるものがある。
と言うと、直接「魅力的だ」と言うよりも、少し落ち着いた、文章らしい表現になります。
しかし、意味としては弱くなっているわけではありません。
むしろ、「はっきり説明できないが、確かにそう感じる」という余韻が加わるため、読者に強い印象を残すことがあります。
よい評価にも悪い評価にも使える
「ものがある」は、よい意味でも悪い意味でも使えます。
よい評価の場合は、次のような言葉と一緒に使われます。
人を引きつけるものがある。
心を動かすものがある。
見る人を安心させるものがある。
どこか温かいものがある。
説得力のあるものがある。
一方、悪い評価や不安を表す場合にも使えます。
この計画には、危ういものがある。
彼の説明には、不自然なものがある。
その態度には、冷たいものがある。
今回の判断には、疑問を感じさせるものがある。
このように、「ものがある」は、話し手が感じた印象を、少し距離を置いて述べる表現です。
強く言いすぎず、でも評価はきちんと伝える。
そこが、この文型の大事なポイントです。
「ものがある」と「ところがある」の違い
「ものがある」と似た表現に、「ところがある」があります。
たとえば、
彼には少し頑固なところがある。
彼の言葉には、人を安心させるものがある。
「ところがある」は、その人や物の一部分の性質を言うときによく使います。
一方、「ものがある」は、もっと感覚的で、内側から感じられる力や印象を表します。
彼には頑固なところがある。
これは、「彼の性格の一部として頑固さがある」という意味です。
彼の話し方には、人を引きつけるものがある。
これは、「彼の話し方から、人を引きつけるような力を感じる」という意味です。
「ところがある」は性質の一部。
「ものがある」は感じ取られる印象や力。
このように分けると、違いが見えやすくなります。
「ものがある」と「感じがする」の違い
「ものがある」は、「感じがする」とも少し似ています。
この店には、落ち着いた感じがする。
この店には、どこか落ち着くものがある。
どちらも印象を表しますが、「感じがする」は比較的日常的で、感覚をそのまま述べる表現です。
一方、「ものがある」は、やや書き言葉的で、評価や分析の文章に向いています。
そのため、N2読解では、評論、エッセイ、紹介文、レビュー文などでよく見られます。
N2読解では「何を評価しているか」を読む
N2の読解で「ものがある」が出たときは、次の点を確認しましょう。
まず、「何には」と書かれているかを見ます。
彼の言葉には
この作品には
今回の対応には
その町の風景には
次に、「どんなものがある」と評価しているかを見ます。
説得力のあるものがある。
懐かしいものがある。
不安を感じさせるものがある。
人を励ますものがある。
この二つをつなげれば、文の意味はかなり読みやすくなります。
たとえば、
彼の言葉には、人を前向きにさせるものがある。
なら、
彼の言葉には、人を前向きにするような力や魅力がある。
という意味です。
「もの」をそのまま物体として考えないことが大切です。
例文で確認しよう
この写真には、見る人を静かな気持ちにさせるものがある。
意味は、「この写真には、見る人の気持ちを落ち着かせるような力や印象がある」です。
彼の説明には、少し疑問を感じさせるものがある。
意味は、「彼の説明には、少し疑問に思うような点や印象がある」です。
この町の古い建物には、どこか懐かしいものがある。
意味は、「この町の古い建物を見ると、懐かしさを感じる」です。
今回の成功には、多くの人を勇気づけるものがある。
意味は、「今回の成功は、多くの人に勇気を与えるような価値を持っている」です。
このように、「ものがある」は、感情・印象・評価を自然に表すときにとても便利です。
「ものがある」は大人っぽい日本語に見える表現
「ものがある」は、日常会話で頻繁に使う表現というより、文章や少しかしこまった説明でよく使われます。
そのため、使えるようになると、日本語の表現が少し大人っぽく見えます。
この映画は感動的です。
でももちろん正しいですが、
この映画には、人の心に残るものがある。
と言うと、より自然なレビュー文らしくなります。
また、
この計画は危険です。
と言うより、
この計画には、やや危ういものがある。
と言うと、批判の強さを少し抑えながら、評価を伝えることができます。
やわらかいけれど、弱くない。
これが「ものがある」の魅力です。
まとめ
「ものがある」は、ある人・物・出来事の中に、説明しにくい印象や力、評価すべき性質が感じられることを表すN2文型です。
「人を引きつけるものがある」
「心を動かすものがある」
「不自然なものがある」
「危ういものがある」
のように、よい評価にも悪い評価にも使えます。
ポイントは、「もの」を実際の物として考えないことです。
「〜には、〜ものがある」と出てきたら、
「〜には、〜のような印象・力・性質が感じられる」
と読んでみてください。
N2読解では、このような少し抽象的な表現を正しく読めるかどうかが、とても大切です。
RJTでは、文法・語彙・読解・聴解を組み合わせて、日本語の表現を文の中で理解できるように練習できます。
「ものがある」のような、直訳だけでは意味がつかみにくい表現も、例文と問題を通して少しずつ身につけていきましょう。