導入
「方法」と「手段」は、どちらも何かを実現するときに使われる言葉です。
そのため、次のように考えてしまう学習者も少なくありません。
どちらも英語では method や means と訳されることがあるので、同じように使えるのでは?
確かに、意味が重なる場面はあります。しかし、いつでも自由に入れ替えられるわけではありません。
「方法」は、どのように行うかという「やり方」に注目する言葉です。一方、「手段」は、目的を達成するために何を使うかという「道具・経路・仕組み」に注目します。
意味が近いからこそ、選ぶ言葉を間違えると、文法的には理解できても少し不自然な日本語に聞こえてしまいます。
この記事では、学習者が作りやすい誤用から出発して、「方法」と「手段」の自然な使い分けを確認していきます。
よくある間違い
まずは、次の文を見てください。
電車は、会社へ行く便利な方法です。
意味は十分に伝わります。しかし、自然な日本語としては、少し違和感があります。
電車は「行き方」そのものではなく、会社へ行くために利用する乗り物です。そのため、この場面では「方法」よりも「手段」のほうが自然です。
もう一つ見てみましょう。
このコピー機を使う手段を教えてください。
この文も、何を言いたいのかは分かります。しかし、コピー機の操作の仕方を知りたい場合は、「手段」ではなく「方法」を使います。
コピー機を使うための道具を探しているのではなく、「どのボタンを押して、どのような順番で操作するか」というやり方を質問しているからです。
なぜ不自然に聞こえるのか
「方法」と「手段」を混同してしまう原因は、どちらも「目的を達成するために必要なもの」を表せることにあります。
しかし、二つの言葉では、話し手が注目している部分が違います。
「方法」が表すのは、行動の進め方、手順、やり方です。
例えば、料理を作るときには、材料を切り、火をつけ、順番に調理します。このような「どのように作るか」が方法です。
一方、「手段」が表すのは、目的を実現するために利用するものです。
例えば、会社へ行くために電車を使う、相手に連絡するためにメールを使う、商品を買うためにクレジットカードを使う、といった場合です。
整理すると、次のように考えられます。
- 方法:どのようにするか
- 手段:何を使って実現するか
「方法」は行動の中身に注目し、「手段」は目的と、それを実現するために使うものとの関係に注目する言葉です。
自然な言い方
先ほどの誤用例を、自然な日本語に直してみましょう。
誤用例1
電車は、会社へ行く便利な方法です。
自然な文
電車は、会社へ行く便利な手段です。
電車は、会社へ行くという目的を達成するために使う交通機関です。そのため、「手段」が自然です。
「交通手段」という決まった組み合わせもよく使われます。
誤用例2
このコピー機を使う手段を教えてください。
自然な文
このコピー機の使い方を教えてください。
または、
このコピー機を使う方法を教えてください。
ここでは、コピー機をどのように操作するかを尋ねています。「やり方」に注目しているため、「方法」が合います。
日常会話では「使う方法」よりも「使い方」のほうが自然で簡潔です。
2つの語の基本的な違い
方法
「方法」は、何かをするときのやり方、進め方、手順を表します。
「どうやってするのか」と考えたときの答えになる言葉です。
よく使われる組み合わせには、次のようなものがあります。
- 勉強方法
- 練習方法
- 解決方法
- 使用方法
- 調理方法
- 計算方法
- 保存方法
例えば、「日本語を上達させる方法」と言う場合、毎日音読する、単語を復習する、日本人と会話する、といった具体的なやり方を指します。
手段
「手段」は、目的を達成するために利用する道具、方法、経路、仕組みなどを表します。
「目的のために何を使うのか」と考えたときの答えになる言葉です。
よく使われる組み合わせには、次のようなものがあります。
- 交通手段
- 連絡手段
- 移動手段
- 支払い手段
- 通信手段
- 生活の手段
- 問題解決の手段
例えば、「日本語を上達させる手段としてアプリを使う」と言う場合、アプリは上達という目的のために利用する道具です。
例文で感覚をつかむ
方法の例文
効率のよい漢字の勉強方法を探しています。
ここでは、漢字をどのように勉強するかという「やり方」を探しています。そのため、「方法」が自然です。
パスワードを変更する方法を教えてください。
知りたいのは、パスワードを変更するときの操作や手順です。「どのように変更するか」に注目しているため、「方法」を使います。
この問題を解決する方法はありますか。
問題をどのような流れで解決するかを尋ねています。具体的な進め方を求めているため、「方法」が合います。
食品を長期間保存する方法を調べました。
冷蔵する、冷凍する、乾燥させるなど、保存のやり方を表しているため、「方法」が自然です。
手段の例文
この地域では、車が主な移動手段です。
車は場所を移動するという目的のために使うものです。「移動方法」ではなく「移動手段」とするのが一般的です。
緊急時の連絡手段を家族で確認しておきましょう。
電話、メール、メッセージアプリなど、連絡するために使えるものを指しています。そのため、「手段」を使います。
現金以外の支払い手段も利用できます。
クレジットカードや電子マネーは、代金を支払うために使う仕組みです。「支払い方法」もよく使われますが、「支払い手段」は利用できる道具や決済サービスに注目した表現です。
彼は夢を実現するための手段として、海外留学を選びました。
海外留学は、夢を実現するという目的に近づくための選択肢です。目的達成のために利用するものなので、「手段」が自然です。
両方使える場合は何が違う?
「方法」と「手段」は、どちらを使っても文が成立する場合があります。
例えば、次の二つの文です。
問題を解決する方法を考えましょう。
問題を解決する手段を考えましょう。
どちらも間違いではありませんが、注目している点が少し異なります。
「解決する方法」は、問題をどのような手順や考え方で解決するかに注目しています。
「解決する手段」は、解決のために使える人、技術、制度、資金などに注目しやすい表現です。
もう一つ比べてみましょう。
日本語を学ぶ方法はたくさんあります。
この文では、授業を受ける、単語を覚える、音読するなどの学び方を想像します。
日本語を学ぶ手段はたくさんあります。
この文では、学校、教科書、アプリ、動画、オンラインレッスンなど、学習のために利用できるものを想像しやすくなります。
どちらも使えるときは、「やり方を説明したいのか」「利用するものを説明したいのか」を考えると選びやすくなります。
「手段」を使う決まった表現
「手段」には、日常会話やニュース、読解問題でよく使われる表現があります。
手段を選ばない
彼は目的を達成するためなら、手段を選ばない。
「手段を選ばない」は、目的を達成するためなら、普通は避けるような行動でも行うという意味です。否定的な意味で使われることが多い表現です。
この場合、「方法を選ばない」とはあまり言いません。
手段がない
今は相手に連絡する手段がありません。
電話番号もメールアドレスも分からず、連絡に使えるものがないという意味です。
「連絡する方法が分かりません」と言うと、電話のかけ方やメールの送り方が分からないという意味に聞こえる可能性があります。
目的ではなく手段
お金を稼ぐことは、目的ではなく手段です。
お金そのものを最終的な目標にするのではなく、生活や夢を実現するために使うものだという意味です。
この「目的と手段」の対比は、読解文や評論文でもよく見られます。
JLPTで間違えやすい選択肢
JLPTの語彙問題では、「方法」と「手段」が同じ選択肢に並ぶことがあります。
どちらも文法的に入りそうに見えるため、単語の意味だけで判断すると迷いやすくなります。
例えば、次の問題を考えてみましょう。
この町には電車がないので、バスが主な交通( )になっている。
選択肢に「方法」と「手段」があった場合、正解は「手段」です。
「交通手段」は、移動のために利用する乗り物や仕組みを表す一般的な組み合わせだからです。
次の問題ではどうでしょうか。
このアプリの使用( )について説明します。
この場合は「方法」が自然です。
アプリをどのような手順で使うかを説明するため、「使用方法」となります。
JLPTで迷ったときは、次の二つを確認してみてください。
- 操作、手順、進め方について述べているなら「方法」
- 交通、連絡、支払いなどに使うものなら「手段」
また、前後にある言葉との組み合わせも重要です。
「交通手段」「連絡手段」「使用方法」「保存方法」のように、よく一緒に使われる言葉をまとまりとして覚えると、正答を選びやすくなります。
まとめ
「方法」と「手段」は、どちらも目的の実現に関係するため、混同しやすい言葉です。
基本的には、次のように整理できます。
- 方法は、どのようにするかという「やり方」
- 手段は、目的のために何を使うかという「道具・経路・仕組み」
- 操作や手順なら「方法」が使われやすい
- 交通、連絡、移動、支払いなら「手段」が使われやすい
- 両方使える場合は、話し手がどこに注目しているかが異なる
単語の意味だけを覚えるのではなく、「どの言葉と一緒に使われるか」「何に注目した文なのか」を考えることが、自然な日本語への近道です。
RJT(Rapid Japanese Training)では、今回のような似ている語の違いを、実際の問題を解きながら身につけることができます。JLPTで正解に近い誤答を選んでしまう方や、語彙の細かなニュアンスを強化したい方は、RJT(Rapid Japanese Training)で日本語の感覚を少しずつ磨いてみてください。