導入
「人が増える」と「人が増す」、「不安が増える」と「不安が増す」。
「増える」と「増す」は、どちらも「前より大きくなる」という意味を持っています。そのため、どちらを使ってもよいように見えることがあります。
しかし、実際には自然に使われる対象や、文章から受ける印象が少し違います。
この違いを理解すると、日常会話だけでなく、JLPTの語彙問題や読解問題でも正しい言葉を選びやすくなります。
まず結論
「増える」は、数や量が前より多くなることを表す、日常的で幅広く使える言葉です。
「増す」は、程度、強さ、重要性、勢いなどが前より大きくなることを表す、やや文章的な言葉です。
覚え方は、次のように整理すると簡単です。
- 人数や物の数が多くなるなら「増える」
- 気持ちや程度が強くなるなら「増す」
ただし、「増す」が数や量に使われることもあります。完全に分けられるわけではありませんが、まずはこの基本的な違いを覚えておきましょう。
意味の違いを整理
「増える」の基本的な意味
「増える」は、数、量、回数などが以前より多くなることを表します。
人、物、仕事、お金、体重、機会など、数えられるものや具体的な量に多く使われます。
例えば、次のような言葉と一緒に使われます。
- 人が増える
- 仕事が増える
- 体重が増える
- 収入が増える
- 利用者が増える
- 選択肢が増える
「増える」は日常会話でも文章でもよく使われる、非常に基本的な言葉です。
何を使えばよいか迷ったとき、数や量について話しているのであれば、「増える」を選ぶと自然になることが多いでしょう。
「増す」の基本的な意味
「増す」は、程度、強さ、勢い、重要性などが以前より大きくなることを表します。
特に、目で数えることが難しい抽象的な変化に使われやすい言葉です。
例えば、次のような言葉とよく組み合わせます。
- 不安が増す
- 期待が増す
- 重要性が増す
- 関心が増す
- 緊張が増す
- 勢いが増す
- 深刻さが増す
「増す」は「増える」よりも少し硬く、ニュース、解説文、ビジネス文書、JLPTの読解文などでよく見られます。
また、「増す」は「勢いを増す」「速度を増す」のように、「を」を使うこともできます。
使う場面の違い
日常会話では「増える」がよく使われる
普段の会話では、「増える」のほうが幅広く使われます。
例えば、家族、友人、仕事、荷物、体重などについて話すときは、「増える」が自然です。
- 最近、仕事が増えました。
- 外国人の観光客が増えています。
- 少し体重が増えてしまいました。
このように、具体的な数や量の変化を伝える場合は、「増える」が基本です。
文章やニュースでは「増す」がよく使われる
「増す」は、説明文やニュースなど、少し硬い文章でよく使われます。
- 国際社会で環境問題の重要性が増している。
- 今後の経済に対する不安が増している。
- 両国の対立は、さらに深刻さを増している。
「増す」を使うと、変化が少しずつ強くなっていることや、その状態がよりはっきりしてきたことを表しやすくなります。
ビジネスでは抽象的な変化に「増す」を使う
ビジネスの文章では、重要性、必要性、期待、関心、競争などについて「増す」がよく使われます。
- 情報管理の重要性が増しています。
- 海外市場への関心が増しています。
- 新しいサービスへの期待が増しています。
もちろん、「重要性が増える」や「関心が増える」も意味は通じます。
しかし、正式な報告書やニュース記事では、「増す」のほうが落ち着いた文章的な印象になります。
例文で確認
「増える」を使った例文
例文1
日本語を勉強する外国人が年々増えています。
日本語を勉強する人の数が、毎年多くなっているという意味です。人数の変化なので、「増える」が自然です。
例文2
新しい仕事が増えて、毎日忙しいです。
しなければならない仕事の数や量が多くなったことを表しています。
例文3
運動をやめたら、体重が三キロ増えました。
体重という具体的な量が大きくなったため、「増える」を使います。
例文4
オンラインで受けられる授業の選択肢が増えました。
選べる授業の数や種類が多くなったことを表しています。
「増す」を使った例文
例文1
試験の日が近づくにつれて、不安が増してきました。
不安という気持ちが、以前より強くなっているという意味です。
例文2
インターネット上の情報を確認する重要性が増しています。
重要性の程度が高くなっているため、「増す」が自然です。
例文3
夜になると、雨と風がさらに強さを増しました。
雨や風の強さが、前より大きくなったことを表しています。
例文4
その選手は、試合が進むにつれて勢いを増していきました。
選手の動きや調子が、だんだん力強くなったという意味です。
例文5
車は速度を増しながら、坂道を下っていきました。
「増す」は、「速度を増す」のように「を」と一緒に使うことができます。速度がだんだん速くなったという意味です。
同じように見えてもニュアンスが違う例
「増える」と「増す」は、同じ言葉と組み合わせられることもあります。
しかし、その場合でも注目している点が違うことがあります。
心配事が増える
心配しなければならない問題の数が多くなるという意味です。
例えば、仕事の問題、家族の問題、お金の問題など、心配の原因が増えた場合に使います。
心配が増す
心配する気持ちが以前より強くなるという意味です。
心配の原因が一つしかなくても、そのことについて強く心配するようになれば、「心配が増す」を使えます。
この違いは、次のように整理できます。
- 心配事が増える:心配の原因や問題の数が多くなる
- 心配が増す:心配する気持ちが強くなる
間違いやすいポイント
人や物の数には「増える」を使う
次の文は、意味は推測できますが、日常的な日本語としては少し不自然です。
この町では外国人が増しています。
ニュースや硬い文章では使われる可能性がありますが、普通の会話では次の形が自然です。
この町では外国人が増えています。
外国人の人数が多くなったことを表しているため、「増える」が基本です。
同じように、次の文でも「増える」を使います。
- 家族が一人増えました。
- 店の商品が増えました。
- 会議の回数が増えました。
「増える」に「を」は使えない
「増える」は、基本的に「何かが自然に多くなる」という変化を表します。
そのため、「を」を使った次の文は正しくありません。
速度を増える。
この場合は、次のように言います。
速度が増える。
または、
速度を増す。
自分や誰かが意図的に数や量を多くする場合は、「増やす」を使います。
生産量を増やす。
「増える」「増す」「増やす」を混同しないように注意しましょう。
抽象的な言葉でも「増える」が使える
「不安が増える」「関心が増える」「重要性が増える」も、文法的に間違いではありません。
ただし、「増す」を使うと、程度が強くなることがよりはっきり伝わり、文章的な表現になります。
- 不安が増える:不安が大きくなるという一般的な表現
- 不安が増す:不安の程度がさらに強くなるという文章的な表現
どちらか一方だけが必ず正しいわけではありません。文体や前後の言葉から判断することが大切です。
JLPTでの見分け方
JLPTの語彙問題や読解問題では、名詞の種類と助詞に注目しましょう。
数や量を表す名詞なら「増える」
次のような名詞がある場合は、「増える」を選びやすくなります。
- 人数
- 件数
- 回数
- 荷物
- 仕事
- 収入
- 体重
- 利用者
例えば、次の文では「増える」が自然です。
高齢者の一人暮らしが年々増えている。
一人暮らしをする高齢者の数が多くなっているためです。
程度や強さを表す名詞なら「増す」
次のような抽象的な名詞がある場合は、「増す」を選びやすくなります。
- 不安
- 期待
- 重要性
- 必要性
- 緊張
- 関心
- 勢い
- 深刻さ
例えば、次の文では「増す」が自然です。
個人情報を守ることの重要性が増している。
重要性という程度が高くなっているためです。
「を」の前後を確認する
「増える」は基本的に「を」を取りません。
そのため、次のような形が出た場合は、「増す」が答えになる可能性があります。
- 勢いを増す
- 速度を増す
- 輝きを増す
- 深刻さを増す
ただし、選択肢に「増やす」がある場合は、主語が意図的に何かを多くしているかどうかも確認してください。
文体を確認する
会話文や日常的な内容では、「増える」がよく使われます。
一方、新聞、解説文、社会問題を扱う文章では、「増す」が使われやすくなります。
選択肢で迷ったときは、次の順番で考えてみましょう。
- 数や量が多くなるのか
- 程度や勢いが強くなるのか
- 「が」と「を」のどちらが使われているか
- 会話的な文か、文章的な文か
この4点を確認すると、正解を選びやすくなります。
まとめ
「増える」と「増す」は、どちらも前より大きくなる変化を表しますが、自然に使われる場面が違います。
- 「増える」は、人、物、仕事、体重など、数や量が多くなるときに使う
- 「増す」は、不安、重要性、勢いなど、程度や強さが大きくなるときに使う
- 日常会話では「増える」が広く使われる
- ニュースや説明文では「増す」がよく使われる
- 「勢いを増す」のように、「増す」は「を」と一緒に使うことがある
似ている言葉を正しく使い分けるには、意味を覚えるだけでなく、実際の文の中で何度も判断する練習が大切です。
RJT(Rapid Japanese Training)では、JLPT形式の問題を解きながら、語彙や文法の使い方を実践的に確認できます。
「意味は分かるのに、選択肢で迷ってしまう」という人は、短い問題を繰り返し解き、日本語の自然な組み合わせを身につけていきましょう。