導入
「広がる」と「広まる」は、どちらも「今までより広いところに届く」というイメージを持つ言葉です。
そのため、日本語学習者は次のような文を作ることがあります。
留学して、私の考え方が広まりました。
意味はなんとなく伝わります。しかし、自然な日本語としては少し違和感があります。
この場合は、「考え方の範囲が以前より大きくなった」という意味なので、「考え方が広がりました」と言うのが自然です。
一方、うわさや知識などが多くの人に知られるようになった場合は、「広まる」を使います。
この2つは意味が近いため、どちらを使っても意味が通じる文もあります。しかし、何がどのように広くなるのかを考えると、より自然な言葉を選べるようになります。
よくある間違い
間違い1
海外で生活して、私の視野が広まりました。
意味は伝わりますが、「視野が広まる」という組み合わせは自然ではありません。
「視野」は、自分が見たり考えたりできる範囲です。その範囲が大きくなる場合は、「広がる」を使います。
間違い2
この新しい勉強法は、SNSを通して多くの学習者に広がりました。
この文は完全な間違いではありません。「広がりました」でも意味は通じます。
ただし、「多くの人に知られ、使われるようになった」という点を強調したい場合は、次のように言うほうが自然です。
この新しい勉強法は、SNSを通して多くの学習者に広まりました。
このように、「広がる」と「広まる」は、文法的な正誤だけではなく、話し手が何に注目しているかによって使い分けることがあります。
なぜ不自然に聞こえるのか
「広がる」と「広まる」の違いは、「広くなるもの」にあります。
「広がる」は、場所、範囲、面積、可能性などが大きくなるときに使います。
例えば、次のようなものです。
- 道の幅
- 景色
- 活動範囲
- 選択肢
- 可能性
- 人間関係
- 被害
- 火
- 感染
これらは、実際の空間や目に見えない範囲が、前より大きくなっていくものです。
一方、「広まる」は、情報や考え方などを知る人、使う人、受け入れる人が増えるときに使います。
例えば、次のようなものです。
- うわさ
- ニュース
- 名前
- 知識
- 習慣
- 技術
- 制度
- 考え方
- 評判
つまり、「広がる」は範囲の変化に注目し、「広まる」は人から人への伝達や普及に注目する言葉です。
自然な言い方
先ほどの誤用例を、自然な文に直してみましょう。
視野の場合
不自然な文:
海外で生活して、私の視野が広まりました。
自然な文:
海外で生活して、私の視野が広がりました。
「視野」は、自分が見たり考えたりできる範囲です。範囲が大きくなったので、「広がる」が合います。
勉強法の場合
少し不自然な文:
この新しい勉強法は、多くの学習者に広がりました。
より自然な文:
この新しい勉強法は、多くの学習者に広まりました。
勉強法そのものの面積が大きくなったのではありません。その方法を知り、使う人が増えたという意味なので、「広まる」が自然です。
ただし、次のように「利用」という範囲に注目する場合は、「広がる」も自然です。
この勉強法の利用が、海外にも広がっています。
「勉強法が広まる」は普及に注目し、「勉強法の利用が広がる」は利用される地域や範囲に注目しています。
2つの語の基本的な違い
広がる
「広がる」は、あるものの範囲や面積、可能性などが大きくなることを表します。
実際に目で見える広さだけでなく、活動、考え、関係、可能性など、目に見えない範囲にも使えます。
窓の外に美しい海が広がっています。
新しい仕事を始めて、人間関係が広がりました。
日本語が話せると、将来の可能性が広がります。
どの文も、「以前より範囲が大きくなった」と考えることができます。
広まる
「広まる」は、情報、知識、習慣、技術などが、多くの人に知られたり使われたりするようになることを表します。
そのうわさは、すぐに学校中に広まりました。
キャッシュレス決済が社会に広まっています。
日本のアニメは世界中に広まりました。
「知る人が増える」「使う人が増える」「受け入れる人が増える」と考えられる場合は、「広まる」が自然です。
一言で整理すると
- 範囲そのものが大きくなる場合は「広がる」
- 多くの人に知られたり使われたりする場合は「広まる」
ただし、情報や文化については、どちらも使える場合があります。そのときは、範囲に注目しているのか、普及に注目しているのかを考えましょう。
例文で感覚をつかむ
例文1
雨が降り続き、川の水が道路まで広がりました。
水が存在する範囲が大きくなっています。そのため、「広がる」が自然です。
「水が広まる」とは普通言いません。水は人から人へ伝えられる情報ではないからです。
例文2
山の上から、町の景色が一面に広がっています。
景色が広い範囲に見えていることを表しています。この場合も「広がる」を使います。
例文3
旅行をすると、自分の世界が広がります。
実際の世界の面積が大きくなるわけではありません。知識、経験、考え方の範囲が大きくなるという意味です。
目に見えない範囲にも「広がる」を使えることが分かります。
例文4
新しい道路ができて、行動範囲が広がりました。
移動できる範囲が大きくなったので、「広がる」が自然です。
「行動範囲が広まる」とは言いません。
例文5
そのニュースは、SNSを通して世界中に広まりました。
ニュースを知る人が増えたことを表しています。そのため、「広まる」が自然です。
例文6
健康に対する正しい知識が、少しずつ広まっています。
知識を持つ人が増えているため、「広まる」を使います。
「知識が広がる」と言うこともありますが、その場合は知識の内容や分野が増えるという意味に聞こえることがあります。
例えば、次の文です。
本を読むことで、歴史についての知識が広がりました。
これは、自分が持っている知識の範囲が大きくなったという意味です。
一方、次の文では「広まる」を使います。
正しい歴史の知識が、多くの人に広まりました。
こちらは、その知識を持つ人が増えたという意味です。
例文7
この習慣は、江戸時代に全国へ広まりました。
習慣を知り、実際に行う人が増えたことを表しているため、「広まる」が自然です。
例文8
火が風にあおられて、隣の建物まで広がりました。
火が燃えている範囲が大きくなったため、「広がる」を使います。
火、煙、被害、感染などには、「広がる」がよく使われます。
例文9
感染が短い期間で全国に広がりました。
感染する地域や人数の範囲が大きくなったという意味です。
「病気が広まる」という言い方もありますが、「感染が広がる」のほうが一般的で自然です。
例文10
日本食の人気が海外にも広がっています。
「人気が広がる」は、人気を集める地域や人々の範囲が大きくなっていることを表します。
一方、次のように言うこともできます。
日本食が海外に広まっています。
こちらは、日本食を知り、食べる人が増えていることを表します。
同じ状況でも、何に注目するかによって言葉が変わります。
どちらも使える場合の違い
「うわさ」「文化」「情報」などは、「広がる」と「広まる」の両方を使えることがあります。
うわさが広がる
会社がなくなるといううわさが、社内に広がりました。
「うわさが届いている範囲が大きくなった」というイメージです。うわさが次々に別の場所へ移動していく様子を感じさせます。
うわさが広まる
会社がなくなるといううわさが、社員の間に広まりました。
「そのうわさを知っている人が増えた」というイメージです。人から人へ伝わることに注目しています。
大きな意味の違いはありませんが、次のように考えると選びやすくなります。
- どこまで届いたかを言いたいときは「広がる」
- 何人くらいが知るようになったかを言いたいときは「広まる」
JLPTで間違えやすい選択肢
JLPTの語彙問題では、「広がる」と「広まる」が同じ選択肢に入ることがあります。
例えば、次の問題を見てみましょう。
インターネットの発達によって、新しい情報が世界中に急速に( )。
- 広がった
- 広まった
この文では、どちらも意味が通じそうに見えます。
ただし、「新しい情報を知る人が増えた」という意味を中心に考えるなら、「広まった」のほうが適切です。
一方、次の文ではどうでしょうか。
新しい空港ができて、観光客の行動範囲が大きく( )。
この場合は、「広がった」が正解です。
行動範囲は、人から人へ伝わるものではありません。範囲そのものが大きくなるため、「広まった」は使えません。
JLPTで迷ったときは、空欄の直前にある名詞を確認しましょう。
次のような名詞なら、「広がる」が選ばれやすくなります。
- 範囲
- 景色
- 面積
- 可能性
- 選択肢
- 被害
- 火
- 感染
次のような名詞なら、「広まる」が選ばれやすくなります。
- うわさ
- 情報
- ニュース
- 知識
- 習慣
- 制度
- 技術
- 名前
- 評判
ただし、単語だけで判断できない場合もあります。
「知識が広がる」と「知識が広まる」のように、両方が使える組み合わせもあるからです。その場合は、文全体を読んでください。
- 知識の内容や範囲が増えるなら「広がる」
- その知識を持つ人が増えるなら「広まる」
似た意味の選択肢が並んでいるときほど、「何が増えているのか」を考えることが大切です。
まとめ
「広がる」と「広まる」は、どちらも広い範囲に届くことを表しますが、注目するポイントが違います。
- 「広がる」は、場所、範囲、面積、可能性などが大きくなる
- 「広まる」は、情報、知識、習慣などを知る人や使う人が増える
- 「範囲が大きくなる」と考えられるなら「広がる」
- 「多くの人に知られる」と考えられるなら「広まる」
- 両方使える場合は、範囲と普及のどちらを強調するかで選ぶ
言葉の意味を知っていても、実際の問題では、よく似た選択肢の間で迷ってしまうことがあります。
そのようなときは、単語だけを見るのではなく、「何が広くなったのか」「人に伝わったのか」「範囲が大きくなったのか」まで考えることが重要です。
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