導入
「目的」「目標」「手段」は、どれも何かを達成するときによく使う言葉です。
そのため、日本語学習者にとっては非常に混同しやすい語です。
たとえば、次の3つはすべて「日本語の勉強」について話しています。
- 日本で働くことが目的です。
- N2に合格することが目標です。
- 毎日問題を解くことが手段です。
3つとも同じ方向を向いていますが、役割はまったく同じではありません。
簡単に言えば、
「何のために?」→ 目的
「どこまで達成する?」→ 目標
「どうやって?」→ 手段
という関係です。
意味が近い言葉だからこそ、入れ替えても意味はなんとなく伝わります。しかし、自然な日本語として見ると違和感が出ることがあります。
特にJLPT N2の読解では、この違いが文章の論理関係を理解するヒントになることがあります。
まずは、学習者が作りやすい間違いから見てみましょう。
よくある間違い
たとえば、こんな文です。
日本で働くために、私の手段はN2に合格することです。
言いたいことは分かります。
しかし、「N2に合格すること」は、この場合は「手段」というより「目標」と考えるほうが自然です。
もう一つ見てみましょう。
日本語を勉強する目的は、毎日単語を20個覚えることです。
この文も、文法的に大きな問題があるわけではありません。
ただし、
「なぜ日本語を勉強するのか」
という質問に対して、
「毎日単語を20個覚えるため」
と答えると、少し不自然に感じます。
「毎日単語を20個覚える」は、勉強する理由というより、具体的な学習目標や学習方法に近いからです。
このように、「目的」「目標」「手段」は同じ活動の中に一緒に出てくるため、役割を混同しやすいのです。
なぜ不自然に聞こえるのか
大きな原因は、「最終的に何をしたいのか」と「そこへ行く途中で何をするのか」を区別していないことです。
たとえば、ある学習者が次のように考えているとします。
日本で働きたい。
そのためにN2に合格したい。
そのために毎日問題を30問解く。
この場合、それぞれの役割は違います。
- 日本で働く → 目的
- N2に合格する → 目標
- 毎日問題を30問解く → 手段
「目的」は、その行動をする理由です。
「目標」は、目的に近づくために達成したい具体的な状態です。
「手段」は、その目標や目的を実現するために使う方法です。
つまり、この3語は同じものを別の言い方で表しているのではありません。
一つの流れの中の「違う位置」を表しています。
自然な言い方
先ほどの例を自然に直してみましょう。
不自然になりやすい文:
日本で働くために、私の手段はN2に合格することです。
より自然な言い方:
日本で働くことが目的で、そのための目標としてN2合格を目指しています。
さらに、手段まで加えるなら、
日本で働くことが目的です。そのためにN2合格を目標にして、毎日練習問題を解いています。
となります。
ここでは、
目的 → 日本で働く
目標 → N2に合格する
手段 → 毎日練習問題を解く
という関係がはっきりしています。
もう一つの例も直してみましょう。
不自然になりやすい文:
日本語を勉強する目的は、毎日単語を20個覚えることです。
自然な言い方:
日本語を勉強する目的は、日本人と仕事でスムーズに話せるようになることです。毎日単語を20個覚えることを目標にしています。
「日本人と仕事で話せるようになる」は、勉強する理由なので「目的」が自然です。
一方、「1日20個」という具体的な数字は、達成する基準として設定しているので「目標」が合います。
「目的・目標・手段」の基本的な違い
目的
「目的」は、
「何のためにそれをするのか」
を表します。
行動の理由や、最終的に実現したいことに注目する言葉です。
たとえば、
健康のために運動する。
という人なら、
運動の目的は健康を維持することです。
と言えます。
「なぜ運動するのですか?」と聞いたときの答えが「目的」になりやすいと考えると分かりやすいでしょう。
目標
「目標」は、
「具体的に何を達成したいのか」
を表します。
数字、期限、試験の合格、到達レベルなどと相性がよい言葉です。
たとえば、
今年中にN2に合格することを目標にしています。
毎日30分勉強することを目標にしています。
のように使えます。
「どこまでできれば達成と言えるのか」を示すのが「目標」です。
手段
「手段」は、
「目的や目標を実現するために、何を使うか・何をするか」
を表します。
つまり、「どうやって?」への答えです。
たとえば、
語彙力を増やす手段として、毎日ニュースを読んでいます。
と言えます。
ニュースを読むこと自体が最終的な目的ではありません。
語彙力を増やすための「方法」なので、「手段」です。
例文で感覚をつかむ
例文1
私が日本語を勉強する目的は、日本で仕事をすることです。
この場合、「日本で仕事をする」は、日本語を勉強する理由です。
「何のために日本語を勉強していますか?」という質問への答えになっているので、「目的」が自然です。
例文2
今年の目標は、JLPT N2に合格することです。
N2合格という、達成したかどうかが分かる具体的な到達点があります。
そのため、「目標」が自然です。
例文3
N2合格という目標を達成するために、毎日30問ずつ問題を解いています。
ここでは「N2合格」が目標です。
そして、「毎日30問問題を解く」という行動が、その目標を達成するための方法になっています。
例文4
インターネットは情報を集めるための便利な手段です。
インターネットを使うこと自体が目的なのではなく、「情報を集める」という目的を実現するために利用しています。
そのため、「手段」が自然です。
例文5
この調査の目的は、若者の生活習慣を明らかにすることです。
研究や調査では「調査の目的」「研究の目的」という表現がよく使われます。
「なぜこの調査をするのか」「この調査によって何を明らかにしたいのか」を示しています。
例文6
今月は売上を10%増やすことを目標にしています。
「10%」という具体的な到達基準があります。
このような場合は「目的」より「目標」が自然です。
会社全体として「何のために事業を行うのか」を表すなら「目的」、一定期間に達成したい数字を示すなら「目標」と考えると整理しやすくなります。
例文7
コストを下げる手段として、業務の一部を自動化しました。
「業務の自動化」は最終的に実現したいことではありません。
「コストを下げる」という目的を実現するために行った方法なので、「手段」です。
3つは固定ではない
ここで少し注意したいことがあります。
ある行動が、いつでも必ず「目的」「目標」「手段」のどれか一つになるわけではありません。
何を中心に考えるかによって、役割が変わることがあります。
たとえば、
N2に合格する。
という同じ内容でも、
日本で就職するために、N2合格を目標にしています。
なら「目標」です。
しかし、
私が日本語を勉強している目的は、N2に合格することです。
という状況なら、「目的」として表すこともできます。
つまり、単語そのものだけを見て判断するのではなく、
「何に対する目的なのか」
「何に対する目標なのか」
「何を実現するための手段なのか」
を見る必要があります。
ここはJLPTの読解でも重要なポイントです。
JLPTで間違えやすい選択肢
JLPTでは、「目的」「目標」「手段」の辞書的な意味をそのまま聞くより、文章の中でどの言葉が自然かを判断させる形が考えられます。
たとえば、次のような文です。
この制度の__は、高齢者が安心して生活できる環境を作ることにある。
この場合、「何のためにこの制度があるのか」を説明しているので、
「目的」
が自然です。
では、次の文はどうでしょうか。
私たちは、来年度までに利用者を1万人に増やすことを__としている。
「1万人」という具体的な到達点があります。
そのため、
「目標」
が自然です。
次はこちらです。
問題を解決する__として、新しいシステムを導入した。
新しいシステムは、問題解決のために使う方法です。
したがって、
「手段」
が自然です。
JLPTで迷ったときは、単語だけを見るのではなく、空欄の前後から次の質問をしてみてください。
- 何のために? → 目的
- 何を達成する? → 目標
- どうやって? → 手段
意味が近いため、どの選択肢も一瞬正しく見えることがあります。
しかし、文章の中で「理由」「到達点」「方法」のどれを説明しているのかが分かれば、かなり判断しやすくなります。
まとめ
「目的・目標・手段」は、次の流れで整理すると覚えやすくなります。
目的
→ 何のためにするのか
目標
→ 何を、どこまで達成するのか
手段
→ どうやって実現するのか
たとえば、
日本で働くことが目的です。
N2合格を目標にしています。
そのための手段として、毎日問題演習をしています。
と考えれば、3つの違いがはっきり見えてきます。
大切なのは、単語の日本語訳だけを覚えることではありません。
文章の中で、
「これは理由なのか」
「具体的な到達点なのか」
「実現するための方法なのか」
を考える習慣をつけることです。
JLPT N2では、このように「意味は似ているけれど、文脈によって使い分ける必要がある語」がよく問題になります。
RJT(Rapid Japanese Training)では、実際に問題を解きながら、似た表現を文脈の中で判断する練習ができます。
「意味は知っているのに、選択肢になると迷ってしまう」という方は、短い問題を繰り返して、正しい使い分けを身につけてみてください。