導入
「パソコンをなおす」と「病気をなおす」。
会話で聞くと、どちらも同じ「なおす」です。しかし、文章にすると、前者は「直す」、後者は「治す」と書くのが一般的です。
この二つは、どちらも「悪い状態をよい状態にする」という意味を持っています。そのため、意味だけを覚えていると、漢字を選ぶときに迷ってしまいます。
大切なのは、「何をよい状態にするのか」という場面を考えることです。
- 物や間違いを正常な状態に戻すなら「直す」
- 病気やけがを健康な状態にするなら「治す」
この基本を、日常会話や学校、仕事、読解問題などの具体的な場面から確認していきましょう。
まず場面で考えてみよう
朝、学校へ行こうとしたら、自転車のブレーキが壊れていました。また、弟は風邪をひいて寝ています。
このとき、次のように言います。
父が自転車を直しています。
弟は家で風邪を治しています。
自転車は「壊れた物」なので、「直す」を使います。
一方、風邪は「病気」なので、「治す」を使います。
どちらも悪い状態をよくすることですが、対象が異なります。
「直す」は、物、文章、間違い、姿勢、習慣など、広い対象に使えます。「治す」は、主に病気、けが、虫歯など、体や健康に関係するものに使います。
場面1:日常会話で使うなら
日常会話では、「直す」も「治す」もよく使います。ただし、「直す」のほうが使える場面は広いです。
物が壊れた場面
A:この時計、動かなくなったんだ。
B:駅前の店で直してもらったら?
時計、スマートフォン、自転車、機械などが壊れた場合は、「直す」を使います。
「修理する」と言うこともできますが、「直す」のほうが日常会話ではやわらかく、使いやすい表現です。
病気になった場面
A:まだ風邪が治っていないの?
B:うん。週末はゆっくり休んで治すよ。
風邪や病気をよくする場合は、「治す」を使います。
ただし、自分の意思とは関係なく自然に回復することを表す場合は、「治る」を使います。
薬を飲んで風邪を治す。
風邪が治るまで家で休む。
「治す」は他動詞で、「治る」は自動詞です。この違いもJLPTではよく問われます。
間違いに気づいた場面
A:この漢字、間違っているよ。
B:本当だ。すぐに直すね。
漢字、文章、答え、計算などの間違いを正しくする場合は、「直す」を使います。
間違いは病気ではないので、「治す」は使いません。
場面2:文章やニュースで使うなら
会話では「なおす」と聞こえるため、漢字の違いは分かりません。しかし、文章やニュースでは、「直す」と「治す」の違いがはっきり表れます。
学校や仕事の文章
学校や仕事では、次のような「直す」がよく使われます。
先生に言われた部分を直して、レポートを提出した。
書類の入力ミスを直してください。
故障した機械を直すため、専門の業者を呼んだ。
これらは、文章、間違い、機械を正しい状態や正常な状態に戻す場面です。
文章では、「修正する」「訂正する」「修理する」などの少しかたい言葉も使われます。
- 文章や内容を直す
- 間違いを訂正する
- 書類を修正する
- 機械を修理する
「直す」は、それらを広く表せる日常的な言葉です。
医療や健康についての文章
病気やけがについて説明する文章では、「治す」が使われます。
この病気を治すためには、早期の治療が必要です。
虫歯を治すには、歯科医院での治療が必要です。
けがを完全に治してから、練習を再開してください。
ニュースや医学的な文章では、「治療する」「回復させる」といった表現も使われます。
それでも、「病気を治す」「けがを治す」という組み合わせは、日常会話から説明文まで広く使われる自然な表現です。
読解問題で「治す」が出てきたら、前後に病気、けが、治療、医師、薬、健康などの言葉がないか確認すると、意味を理解しやすくなります。
場面3:感情や評価が入るなら
「直す」と「治す」は、物や病気だけでなく、癖や行動についても使われることがあります。
この場合は、話し手がその問題をどのように見ているかによって、ニュアンスが変わります。
行動を改善すると考える場合
遅刻する癖を直したほうがいいよ。
この「直す」は、よくない行動や習慣を改善するという意味です。
遅刻は病気ではなく、行動上の問題として考えられているため、「直す」が自然です。
話すときに下を向く癖を直したい。
この場合も、自分の行動や姿勢を変えたいという意味なので、「直す」が自然です。
深く身についた問題と考える場合
子どものころからの悪い癖を、本気で治したい。
癖に対して「治す」を使うこともあります。
この場合、その癖を簡単には変えられない、深く身についた問題として捉えているニュアンスがあります。病気を治療するように、時間をかけて改善したいという気持ちが感じられます。
ただし、一般的な習慣や行動については、「癖を直す」のほうが広く使われます。
また、人の性格について「治す」を使うと、その性格を病気のように扱っている印象を与えることがあります。
あなたはその性格を治したほうがいい。
この言い方は、相手を強く批判しているように聞こえる可能性があります。
相手にやわらかく伝えたい場合は、次のような表現のほうが自然です。
その考え方は、少し変えたほうがいいかもしれないね。
その話し方を少し直したほうがいいと思うよ。
言葉の意味だけでなく、相手がどのように感じるかも考えることが大切です。
2つの語の違いを整理
「直す」と「治す」の違いは、何をよい状態にするかで考えると分かりやすくなります。
- 「直す」は、物を正常な状態に戻すときに使います。
- 「直す」は、文章、答え、間違い、姿勢、行動などを正しくするときにも使います。
- 「治す」は、病気、けが、虫歯などを健康な状態にするときに使います。
- 「直す」は対象が広く、日常会話でも非常によく使われます。
- 「治す」は、主に体や健康に関係する場面で使われます。
- 癖にはどちらも使われることがありますが、「直す」は行動の改善、「治す」は深く身についた問題の克服という印象を与えることがあります。
迷ったときは、次のように考えてください。
壊れた物や間違いなら「直す」
病気やけがなら「治す」
例文で確認
1.壊れたパソコンを直してもらいました。
故障した物を正常な状態に戻す場面です。パソコン、時計、車、自転車などには「直す」を使います。
2.作文の間違いを赤いペンで直しました。
文章や答えの間違いを正しくする場面です。学校の作文、試験の答え、仕事の書類などに使えます。
3.先生に言われて、座る姿勢を直しました。
体の姿勢を正しい状態に変える場面です。病気の治療ではないため、「直す」が自然です。
4.発音を直すために、何度も練習しました。
間違った発音や不自然な話し方を改善する場面です。日本語学習でもよく使われる表現です。
5.薬を飲んで、早く風邪を治したいです。
風邪という病気をよくする場面なので、「治す」を使います。
6.試合までに足のけがを治さなければなりません。
けがを回復させる場面です。スポーツや日常生活でよく使われます。
7.来週、歯医者で虫歯を治してもらいます。
虫歯は体の健康に関係する問題なので、「治す」が自然です。
8.夜更かしする癖を直したいと思っています。
生活上の習慣や行動を改善する場面です。「直す」を使うと、行動を正しく変えるという印象になります。
9.長年の悪い癖を治すのは簡単ではありません。
その癖を深く身についた問題として捉えている表現です。「治す」を使うことで、時間をかけて克服するという印象が強くなります。
10.体調を治すために休みます。
意味は伝わりますが、この言い方はあまり自然ではありません。
体調は、一般的に「整える」「回復させる」と表現します。
体調を整えるために、今日は早く寝ます。
体調が回復するまで、しばらく休みます。
「健康に関係する言葉には、すべて『治す』を使える」と考えないように注意しましょう。
JLPT読解での見方
JLPTの読解問題で「直す」や「治す」が出てきたときは、その言葉だけを見るのではなく、何を対象にしているかを確認してください。
「直す」の近くには、次のような言葉が出やすいです。
- 機械
- 故障
- 文章
- 間違い
- 答え
- 姿勢
- 習慣
- 態度
「治す」の近くには、次のような言葉が出やすいです。
- 病気
- 風邪
- けが
- 傷
- 虫歯
- 医師
- 薬
- 治療
ただし、「癖を治す」のように、病気ではないものに「治す」が使われることもあります。
その場合は、筆者がその癖をどのように評価しているかを考えましょう。
単なる行動の修正として書かれているなら「直す」に近い意味です。簡単には変えられない深刻な問題として書かれているなら、「治す」によって強い問題意識が表されている可能性があります。
また、「体の状態だから治すだろう」とすぐに決めないことも大切です。
例えば、姿勢は体に関係しますが、「姿勢を直す」と言います。一方、けがは「けがを治す」と言います。
漢字だけで判断するのではなく、対象となる名詞と前後の文脈を一緒に確認することが、読解問題で正しく意味をつかむポイントです。
まとめ
「直す」と「治す」は、どちらも悪い状態をよい状態にすることを表しますが、使う対象が異なります。
- 物の故障、文章、間違い、姿勢、行動には「直す」
- 病気、けが、虫歯には「治す」
- 会話ではどちらも「なおす」と発音する
- 文章では、対象に合わせて漢字を選ぶ
- 癖の場合は、改善なら「直す」、深い問題の克服なら「治す」が使われることもある
単語の意味だけを覚えるのではなく、「誰が、何を、どのような状態にするのか」という場面と一緒に覚えると、自然な使い分けができるようになります。
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